福は内
寺内の一隅につがいで二羽の鴨が住みついている。はじめは人影を見ると急いで物陰に身を隠していたが、二ヶ月もたつと、人の手から餌を食べるようになった。ただ夜行性なので、先輩格の愛犬たちは気に入らぬらしい。
 ある料理屋が開店10周年記念の祝宴を張った。その祝いにと客の一人は鴨を贈った。早速ひねって祝いの席に出そうと箱を開けると、二羽の鴨が羽を寄せ合い、かばい合うようにうづくまっていた。あまりの仲睦まじさに板前の手が鈍った。出てきた主人もその姿を見て、どうしても手が出せなかった。
 鴨は助かった。そして頼まれて寺で飼うようになった。彼らはいま、ここに安住の地を与えられて楽しそうだ。もっと馴れてきたら、広い外へ出して遊んでやろう。
 聖徳太子は十七上憲法のはじめに「和をもって貴しとなす」と示されている。
 鴨たちはその仲睦まじさの故に災難をのがれ、幸せをつかむことが出来た。二羽の「和」の姿が、彼らにとっては恐ろしい鬼でもある料理人の心さえ動かしてしまった。
 初詣で、厄除けのお守りを授かって、この一年を無事にと祈った人もあろうが、「鬼は外、福は内」と叫ぶ前に、福は、内なる心の持ち方で招くものであり、「和」を尊しとして過ごすことが、厄をさけ福を呼ぶ道であることを、また、その心が命さえ救う物であることを、鴨たちにおしえられたのである。