母と子
 八十九歳まで丈夫だった。子供の頃から可愛がってくれていたので、私も実の祖母のような心安さから、会うと良く口論したものだ。それは決まって、
「今の若い者は・・・・・・・」で始まる。
「そんな事云っても・・・・・」と反論する。
結局は私が負けるのであるが、それが楽しいらしい。でも本人は良く解っていて、
「悪口ばあさんで、ごめんなさいね」と別れるのが常であった。
台所で転倒して腕を折った。それがもとで二十日あまりで亡くなった。若い人なら何でもないことだが、ギリギリのバランスで保っている老体は、歯車が一つ狂うと、命にひびくのであろう。
 最後の十日あまりは寝たきりだった。二人の子供、といっても一人は六十過ぎの息子、一人は六十近い娘の世話になった。オシメも替えねばならない。娘の留守の時もある。
 息子がためらった。それと知った老母は、「赤ん坊の時は私がやってあげたんだよ。恩返しと思って、しっかりやりな」
「わかったよ。いまやるよ」
六十過ぎのごつい男が、詫びながら替えていたという。
怒鳴る老母もさることながら、怒鳴られて従う息子も羨ましい。「若い者は」と云っていたが、悔いの無い一生。
最期の思いは、きっとそうであったと思う。