埋 み 火 

                              ------ はじめに           大 室 了 皓

 寒さに震えて帰宅し火鉢にとびつく。かすかに暖かいが火は無い。急いで灰をかき除くと、小さな炭火が出てきた。留守に帰ってくるであろう私のために母が埋めておいてくれたものだ。小さな火だから炭をつがねば凍えた手は温まらないが、母の愛情を感じて心は温かくなった。火鉢しか暖房の無い子供の頃の、遠い思い出である。
 世の中には、人の目の届かない処、それもすぐ身近な処に、美しいものが、つつましやかに潜んでいることが少なくない。
 マスコミは嫌なことを好んで報道するので、この世は濁世かと思い違いしかねないが、眼を開いて良く観ると、素晴らしいものに囲まれていることに気がつく。そういう眼を持ち続けて、暗い中にあっても、心は明るく、微笑みを忘れない人になりたい。私の願いである。
 また後の人のために、炭の火種をそっと埋める人にもなりたい。
 書名を「埋み火」としたが、思いつくままに綴った拙文なので、お読みになる方々のお許しを願うものである。

  よく見れば  なずな花さく  垣根かな   (芭蕉)


 目 次  (「埋み火」(法話通信・昭和24年〜平成3年)第一集126話より精選56話)

1

紙が泣く

20

老いた父

39

慈悲のあらわれ

2

享けているもの

21

群れ遊ぶ雀

40

柿の実

3

病を看とる

22

感激のない子

41

恩を知る

4

福はうち

23

諸行無常

42

嫌な奴

5

月日の流れ

24

弱みにつけ込む

43

虚と実

6

情に生きる

25

捧げてくれた人

44

うれしいことがある

7

うしろ姿に

26

施して悔いる

45

どこかで生きている

8

母と子

27

そしられるに耐える

46

一隅を照らす

9

だれにみしょとて

28

次第行乞

47

三人の天使

10

はじめて知る悲しみ

29

慕われる喜び

48

佛に囲まれて

11

言霊

30

ある語らい

49

いただきもの

12

菩薩の化身

31

今日を限りの

50

塀中の人

13

心で写す

32

石佛にこもる思い

51

心のありか

14

思いもつかぬ人

33

愚かな予見

52

みんな良い人

15

祈る心

34

だれの世話に

53

雨の音

16

おかげさまで

35

良寛さまの渋い顔

54

善意に咲く

17

忿怒

36

美しき世界

55

たった一言が

18

凡々たる日々

37

うらない

56

お見通し

19

日々これ好日

38

むしられるもの